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鏡心月 其の壱 「 月読橋 」

昨日も、一昨日も、その前の夜も

夜空を見上げて何を思うた

月を見上げて

何を思うて
泣いた





「 鏡心月 」




其の壱 「 月読橋 」




おりょうは月を見ていた。

絹笠屋での勤め帰りに、この月読橋で
ひとり月を見上げるのがいつからかの習慣になっている。



まんまるい月

細く消えいりそうな月

赤い月を見たこともあった。



おりょうは、その日その日の出来事や感情に
月の姿を重ね合わせ夜空を見上げる。





「月が好きなんですね。」





「月が好きなんですね。」





私?

私に問うているん?
声のする方を見ると、見知らぬ男がこちらを見ている。
今夜は丸くて大きな月が笑っている。
月明かりが
近寄ってきた男のなんとも優しげな顔を照らした。



「昨日もこの橋で月を見上げていましたね。」

「・・・。」

「おとといも月を見ていた。」

「・・・。」

「僕はあなたばかり見ていた。」

「・・・。」



口説いているんやろか。
けったいな人。



「月が好きかどうか考えたことありません。
ただ、きれいやなぁ、不思議やなぁ、って思て見ているだけです。」

男はにっこりと笑顔で深くうなづいた。



いきなり話しかけてきて「あなたばかり見ていた」なんて
ちょっと調子が良すぎる。

おりょうは小さく会釈をして月読橋を渡った。




何?
今のあの人。
でも・・・
なんて優しげな笑顔やろ。
誰?
昨日も、一昨日もって言っていた。

私は昨日、一昨日どんな顔で夜空を見上げていた?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



来た!

七之助は思わず声に出しそうになったほど嬉しかった。
女が月読橋を渡ってきたのだ。

予想通り橋の中央で立ち止まり、夜空を見上げる。



昨日もそうだった。

一昨日もそうだった。

初めて見た日もそうだった。



どんな顔なのかは暗くてよく見えないが
おぼろげに浮かび上がる姿から
華奢な若い女だと推測できた。





「月が好きなんですね。」

七之助は思い切って声をかけてみるが
女は気がつかないのか熱心に月を見たままだ。





めげずにもう一度、声をかける。

「月が好きなんですね。」





七之助が女に近寄ると
月明かりが女の白い肌を照らし出した。

見知らぬ者に突然に声をかけられて
少し驚いたような戸惑うようなしぐさが可愛らしい。
年は二十くらいか。

切れ長の瞳がきれいな女だった。

化粧っけのなさがますます淋しげな表情に憂いを帯びせている。



「昨日もこの橋で月を見上げていましたね。」

「・・・。」

「おとといも月を見ていた。」

「・・・。」

「僕はあなたばかり見ていた。」

「・・・。」



うぶな人。
何も言えずに困っているのかな。



「月が好きかどうか考えたことありません。
ただ、きれいやなぁ、不思議やなぁ、って思て見ているだけです。」

七之助はにっこりと笑顔でうなづいた。



なんて耳に心地良い声やろ。

七之助が聞き惚れている間に、女は会釈をして去った。




昨日も、一昨日も、その前の夜もこの橋で見かけたあの娘。

夜空を見上げて何を思うた?

月明かりに照らし出された女の姿は
想像以上に可憐だった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



翌日、おりょうは絹笠屋の勤めが休みの日だった。
おりょうは月の出る頃になると考えずにはいられなかった。

「あの人は今夜もあの橋に来るやろか。」



そして

明後日も

月読橋に来るやろか。



「月が好きなんですね。」と問うたあの人。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



おりょうは今夜の帰り道のことばかり考えてしまう自分に苦笑した。
せっせせっせと料理を運んで、酒をつけて、きびきび働いても
気がつけば、月読橋のことばかり思い浮かべてしまう。

ううん。
また会えるとは限らへんのやし。

ただの通りすがり。
そう。通りすがりの人やねんから。

おりょうは我知らずのうちに
今夜会えなかった時に落胆してしまう事を恐れてさえいた。
だからあの男は通りすがりの人なのだと
何回も何回も自分自身に言い聞かせた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



一日の仕事を終え、店を出たおりょうは早足で橋へと向かった。



月読橋の上に行灯がひとつ揺れている。



あの人や。



おりょうの顔がぱっと輝いた。



おりょうが橋をのぼって行くと、七之助が一歩近寄った。
「こんばんは。
私は昨夜もここへ来たんです。」

「私は勤めが休みだったもので。」

「明日もここへ来ます。」

「私も今時分ここを通ります。」

また小さく会釈して、おりょうは月読橋を渡った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



翌日も翌々日も、そしてその次の日も、そのまた次の日も
二人は橋の上で少しずつ話を交わした。

七之助というこの若者は物書きで
行き詰まるとこの橋へ来るのだという。

身なりがきっちりとしているだけでなく
話し方や物腰が優しく爽やかな七之助。

おりょうは前の日よりも更に七之助にまたひとつ惹かれていった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



ある夜、月は出なかった。
おまけに店を出て六万寺町に入ったあたりから小雨が降りはじめた。

おりょうは雨に濡れることよりも
七之助が雨のせいで帰ってしまうことを心配した。


お願いやからこれ以上降らんとって。


祈るようにして、心の中でつぶやきながらおりょうは走った。


しかし七之助は帰ってはいなかった。
「大急ぎで傘を取りに一度戻ったんです。」
と、傘を差し出した。

「そりゃあもう、大慌てで。
おりょうさんとすれ違って会えなかったらいけないから。」

優しく満足げな笑顔がおりょうの心にしんわりと喜びを満たす。

「ああ。こんなに濡れてしまって。」

ふいに七之助に手ぬぐいでおでこをそっと拭かれて
おりょうはどぎまぎした。

「早く帰って乾かしな。風邪をひいてしまう。」
一瞬、傘を握らせようとする七之助の大きな手が
おりょうの細い手をすっぽりと包んだ。

「ありがとう。七之助さん。」

やっとのことで礼を言った。
声が震えているのではないかと思うほど
おりょうの心はどきどきと高鳴った。










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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この記事へのコメント

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おりょうの視点と七之助の視点からの連続描写。
ガイ・リッチー監督ばりの、この組み立て。

橋の上での出会いはまさしく【君の名は】

降雨に打たれた二人の衝動は言わずもがな【雨の慕情】と【たんぽぽ】

すばらしい。
映画を5本ぐらい観た気分だ☆

よし。

ワイも使うで、この手。


難波のあの橋上で。

『月が好きやねんの・・』

「・・・・・・」

『月が好きやねんのっ・・!』

「・・・・・・」


『月が好きやねんのおぉっ!!??』




女はウォークマンをしていた。


Fin
や~んこの作品初めからのめり込む私、おりょうちゃんと七之助の
恋の始まりじゃないのん。今回は私、おりょうちゃん自身になりすまして作品拝見しようと思います。ワクワクしちゃう!

壁カジさん、難波の橋の上でナンパしたら女は、ウォークマン
してた。 爆、爆、爆笑… それ自分の経験なのかしら~ん
今日のリンダドロンジョ様鞭を持参しております。
壁カジ吐いておしま~い。
鍵コメちゃん。

> 最近、月を見上げることが多くなったの
> 時には、・・・
> 時には、・・・
> そして、時には・・・。

きっと鍵コメちゃんと同じような気持ちで
あの人も見上げていると思うねんよ。
(*⌒ー⌒) もう、ただそれだけで、しみじみ嬉しいよね。
繋がってるって・・・伝わってるって、いいなぁ。

* ̄0 ̄)ノ ハイッ。
私も大阪で鍵コメちゃん今日の月を見たかなって
同じこと考えて同じように見上げたりしてるよ。

月。不思議な存在やんなぁ。

> ・・・が多くなったからかな・・・
鍵コメちゃんの静かで言葉少ななコメントから
なんかね・・・色々伝わってきそうに思える瞬間があるねん。
瞬間やから、結局つかむ事は出来へんねんけど。
それでも、伝えてくれる事を大切に大切に読みたいと思います!





壁カジさん。

> おりょうの視点と七之助の視点からの連続描写。
あんe-414 そこに着目してくれはったん。嬉しいなぁ。
終わりまで交互におりょうと七之助の視点で書くつもりでしたが
第1節で あえなく沈没。
男の目線、男心がわかりませんでした~v-406

> 映画を5本ぐらい観た気分だ☆
いつも映画になぞらえてくれてありがとう♪
もうね。コメント読んでるとワクワクしてくるんよ♪
こんな事って他ではないもん。

> 難波のあの橋上で。
アハハ(*^□^*) 壁カジショートシネマ♪♪ほんま ええなぁ。

しか~し・・・

そこちゃうッッ( ̄^ ̄)e-282どこで女の子ナンパしてんのんv-17
ウチの近所を流れる長瀬川、 帝キネ橋にお銀はいま~すe-414
↑↑ 太秦に匹敵する帝国キネマ撮影所というのがあった場所。





リンダちゃん。

> おりょうちゃんと七之助の恋の始まりじゃないのん。
リンダちゃんの言う通りやねん。
恋のはじまり、恋のゆくえを書いてみた~♪
リンダちゃん、おりょう自身になって読んでくれるん?
いや~んe-414 嬉しいなぁe-414
おりょう改め名前を、お凛ちゃんにしたらよかった~v-406
やっぱり登場人物になって読んでもらったり感想を聞くと
ほんまに嬉しいe-420 こちらこそワクワクよ、ありがとう。

> 壁カジさん、難波の橋の上でナンパしたら女は、ウォークマン
あら。経験談なん?あっ。失敗談か♪

> 壁カジ吐いておしま~い。
アハハ(*^□^*) 好き~e-266そのキャラ。
今朝、深キョンのドロンジョ様を見てすぐに
リンダちゃんを重ねた私ですe-415
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 ののみ

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