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時代小説の記事一覧

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鏡心月 其の四 「 ほのかに揺れる灯り 」

昨日も、一昨日も、その前の夜も

夜空を見上げて何を思うた

月を見上げて

何を思うて
泣いた





「 鏡心月 」




其の四 「 ほのかに揺れる灯り 」




「明日やね。」

「楽しみやなぁ。」


お紋が弾む気持ちを抑えながら小声で言うと
おりょうも笑顔でこたえた。

二人はせわしなく空の鉢や碗を洗い場まで運び
料理やお銚子を再び盆にのせて、廊下を並んで歩いた。

「目いっぱい小洒落て行こや。」
「お紋ちゃんは新調した着物でな。」
「おりょうちゃんはあの簪(かんざし)な。」

二人は顔を合わせて、にぃっと笑うと
廊下を隔てて左右の部屋へと分かれた。

おりょうは今日一日、気持ちがふさぎがちだった。
しかし、お紋とふた言みこと言葉をかわすだけで
沈んでいた心が、少しだけ上向くのを感じた。

お紋は人をついつい笑顔にさせるような
お日様のような娘だ。

ただそばにいるだけで。



お紋ちゃん。

いつも、ありがとお。



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一日の仕事を済ませ衣笠屋を出ていくおりょうの後ろ姿を
そっとお紋が見ていた。


おりょうちゃん。

いつもは急ぎ足で帰って行くのに。
今日はなんや、のろのろやなぁ。

珍しく元気なかったし。
どしたん。

おりょうちゃん。



明日おりょうに訳を尋ねてよいものかと思案しながら
お紋は家路についた。



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おりょうは七之助に会いたかった。


昨夜の全身を射抜いたかのような七之助の眼が怖かったが
それでもやはり会いたかった。

ひと目、顔を見たかった。

昨夜の七之助のひと言に縛られたからこそ
今夜会って、あれは何でもなかったんだと安心したかった。


おりょうは渡すあてのない筆入れを、袖の下に今日も入れていた。



しかし



月読橋の袂のところまで来て、おりょうは愕然とした。




橋の上は真っ暗だった。




いつも優しく出迎えてくれた、ほのかな灯りは無かった。

橋の上に
七之助はいないのだ。





これまでずっと
一日のおわりに

月読橋に
私をみちびくのは

月のあかりだった



あの人に出会い
いつしかそれは

月読橋へと
私を優しくいざなう

ほのかに揺れる灯り

あの人がともす灯りへとかわっていた





おりょうは月を見上げることもできずに
ただ、家へと歩いた。



七之助と出逢ってひと月。

こんな事は初めてだった。





ひとめでもいいから

あの人に

会いたかった。











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拍手してくださってありがとうございます。
どなたでしょうか。

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鏡心月 其の参 「 藍色の筆入れ 」

昨日も、一昨日も、その前の夜も

夜空を見上げて何を思うた

月を見上げて

何を思うて
泣いた





「 鏡心月 」




其の参 「 藍色の筆入れ 」




唇に紅を薄くひいたおりょうは、小さな手帛紗を見つめた。


ちりめんの手ふくさには

藍色の筆入れが入っている。



ちゃんとあの人に渡せるやろか。



そう思っただけで急に胸がどきどきし始めた。

おりょうは傘を大事そうに胸に抱き、絹笠屋を後にした。



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月読橋の上に優しい灯がひとつ。



まるで私を出迎えてくれるかのよう。

今夜も七之助さんが橋の上にいてくれた。
これだけで、もう
心にじんわりと嬉しい。


「こんばんは。」
「や。こんばんは。」

「傘、ほんまに助かりました。」
「・・・いや・・・。」
「ずいぶん濡れてしもたでしょう?」
「いえ・・・。」





今夜は七之助さん、無口や。
気のせい?


そうや。筆入れを渡そう。

おりょうは袖の中に入れていた手ふくさを取り出そうとした。



「紅を塗ってるの?」



「え。」

気づいてくれたことが嬉しいのと
そして、恥ずかしくくすぐったい気持ちで
おりょうは七之助を見上げた

と、その時






「そういうの、あんまり好きじゃないな。」





声が
出えへん。





おりょうの顔がみるみる真っ赤になった。

何か言わなければと焦るほど

舌が
身体が

固まって

声が出なかった。



おりょうは

袖の下、ふくさを掴んでいた手を

放した。



あとは、もう
自分が何を話して、どう別れたのか
よくわからなかった。

「傘、破れた穴を貼ってくれたのかい?嬉しいなぁ。」
と七之助が言った事だけはわかった。



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恥ずかしい。



「そういうの、あんまり好きじゃないな。」

さきほどの七之助の声が身体じゅうを縛りつけるようだった。



おりょうは紅を
唇を指でぬぐった。



恥ずかしい。



賤しい下心を見破られてしまったような気がした。


私の浅ましい心。



それを 一番知られたくない七之助さんに見られたやなんて。





後ろ手に戸口を閉めた時

ちりめんの手ふくさが

袖から



ポトリと落ちた。










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鏡心月 其の弐 「 紅 」

昨日も、一昨日も、その前の夜も

夜空を見上げて何を思うた

月を見上げて

何を思うて
泣いた





「 鏡心月 」




其の弐 「 紅 」




長屋に帰り、髪を手ぬぐいで拭いたおりょう。
それでもまだ胸の高鳴りはおさまらない。



一瞬

私の手が

七之助さんの手に包まれた。



傘を私に持たせようとした七之助さん。
雨に濡れながら私を見送ってくれた七之助さん。

ゆっくりと丁寧に押しあてるようにして傘を拭く。



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おりょうはその夜
夜具に入ってもまだ親身にしてくれた七之助のことを想っていた。
もういい加減寝なくては、と思ったその時。


そや!

お礼・・・。
何かお礼がしたい。

私に何ができるやろ。


いてもたってもいられなくなり
灯をともし、裁縫箱と裁ち残りの端切れを出す。



なにを?



筆入れは?
筆入れをこさえよう。



その思いつきは、おりょうの心を躍らせた。



七之助さんのことを思いながら

布を裁ち

ひと針ひと針縫う



なんて幸せなひとときやろ。



なんて満ち足りた時間やろ。



もうひと頑張り。

そして

あともう少し。




できた!




こんなもの、迷惑に思うやろか?

小さな不安が胸をかすめる。



ううん。
七之助さんはきっと
ありがとうって笑うてくれる。



外は明るくなり始めていたが、ちっとも眠くない。

もうじき、明け六つ時。
朝御飯を炊く音や匂いが長屋のあちらこちらから感じられる。

おりょうは幸せだった。





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一日の仕事の終わり。

魔が差すとは、こんな時を言うのやろか。


私は七之助さんに少しでも良く思われたくて

いつもはつけない

薄く紅い


紅をさした。










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鏡心月 其の壱 「 月読橋 」

昨日も、一昨日も、その前の夜も

夜空を見上げて何を思うた

月を見上げて

何を思うて
泣いた





「 鏡心月 」




其の壱 「 月読橋 」




おりょうは月を見ていた。

絹笠屋での勤め帰りに、この月読橋で
ひとり月を見上げるのがいつからかの習慣になっている。



まんまるい月

細く消えいりそうな月

赤い月を見たこともあった。



おりょうは、その日その日の出来事や感情に
月の姿を重ね合わせ夜空を見上げる。





「月が好きなんですね。」





「月が好きなんですね。」





私?

私に問うているん?
声のする方を見ると、見知らぬ男がこちらを見ている。
今夜は丸くて大きな月が笑っている。
月明かりが
近寄ってきた男のなんとも優しげな顔を照らした。



「昨日もこの橋で月を見上げていましたね。」

「・・・。」

「おとといも月を見ていた。」

「・・・。」

「僕はあなたばかり見ていた。」

「・・・。」



口説いているんやろか。
けったいな人。



「月が好きかどうか考えたことありません。
ただ、きれいやなぁ、不思議やなぁ、って思て見ているだけです。」

男はにっこりと笑顔で深くうなづいた。



いきなり話しかけてきて「あなたばかり見ていた」なんて
ちょっと調子が良すぎる。

おりょうは小さく会釈をして月読橋を渡った。




何?
今のあの人。
でも・・・
なんて優しげな笑顔やろ。
誰?
昨日も、一昨日もって言っていた。

私は昨日、一昨日どんな顔で夜空を見上げていた?



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来た!

七之助は思わず声に出しそうになったほど嬉しかった。
女が月読橋を渡ってきたのだ。

予想通り橋の中央で立ち止まり、夜空を見上げる。



昨日もそうだった。

一昨日もそうだった。

初めて見た日もそうだった。



どんな顔なのかは暗くてよく見えないが
おぼろげに浮かび上がる姿から
華奢な若い女だと推測できた。





「月が好きなんですね。」

七之助は思い切って声をかけてみるが
女は気がつかないのか熱心に月を見たままだ。





めげずにもう一度、声をかける。

「月が好きなんですね。」





七之助が女に近寄ると
月明かりが女の白い肌を照らし出した。

見知らぬ者に突然に声をかけられて
少し驚いたような戸惑うようなしぐさが可愛らしい。
年は二十くらいか。

切れ長の瞳がきれいな女だった。

化粧っけのなさがますます淋しげな表情に憂いを帯びせている。



「昨日もこの橋で月を見上げていましたね。」

「・・・。」

「おとといも月を見ていた。」

「・・・。」

「僕はあなたばかり見ていた。」

「・・・。」



うぶな人。
何も言えずに困っているのかな。



「月が好きかどうか考えたことありません。
ただ、きれいやなぁ、不思議やなぁ、って思て見ているだけです。」

七之助はにっこりと笑顔でうなづいた。



なんて耳に心地良い声やろ。

七之助が聞き惚れている間に、女は会釈をして去った。




昨日も、一昨日も、その前の夜もこの橋で見かけたあの娘。

夜空を見上げて何を思うた?

月明かりに照らし出された女の姿は
想像以上に可憐だった。



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翌日、おりょうは絹笠屋の勤めが休みの日だった。
おりょうは月の出る頃になると考えずにはいられなかった。

「あの人は今夜もあの橋に来るやろか。」



そして

明後日も

月読橋に来るやろか。



「月が好きなんですね。」と問うたあの人。



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おりょうは今夜の帰り道のことばかり考えてしまう自分に苦笑した。
せっせせっせと料理を運んで、酒をつけて、きびきび働いても
気がつけば、月読橋のことばかり思い浮かべてしまう。

ううん。
また会えるとは限らへんのやし。

ただの通りすがり。
そう。通りすがりの人やねんから。

おりょうは我知らずのうちに
今夜会えなかった時に落胆してしまう事を恐れてさえいた。
だからあの男は通りすがりの人なのだと
何回も何回も自分自身に言い聞かせた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



一日の仕事を終え、店を出たおりょうは早足で橋へと向かった。



月読橋の上に行灯がひとつ揺れている。



あの人や。



おりょうの顔がぱっと輝いた。



おりょうが橋をのぼって行くと、七之助が一歩近寄った。
「こんばんは。
私は昨夜もここへ来たんです。」

「私は勤めが休みだったもので。」

「明日もここへ来ます。」

「私も今時分ここを通ります。」

また小さく会釈して、おりょうは月読橋を渡った。



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翌日も翌々日も、そしてその次の日も、そのまた次の日も
二人は橋の上で少しずつ話を交わした。

七之助というこの若者は物書きで
行き詰まるとこの橋へ来るのだという。

身なりがきっちりとしているだけでなく
話し方や物腰が優しく爽やかな七之助。

おりょうは前の日よりも更に七之助にまたひとつ惹かれていった。



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ある夜、月は出なかった。
おまけに店を出て六万寺町に入ったあたりから小雨が降りはじめた。

おりょうは雨に濡れることよりも
七之助が雨のせいで帰ってしまうことを心配した。


お願いやからこれ以上降らんとって。


祈るようにして、心の中でつぶやきながらおりょうは走った。


しかし七之助は帰ってはいなかった。
「大急ぎで傘を取りに一度戻ったんです。」
と、傘を差し出した。

「そりゃあもう、大慌てで。
おりょうさんとすれ違って会えなかったらいけないから。」

優しく満足げな笑顔がおりょうの心にしんわりと喜びを満たす。

「ああ。こんなに濡れてしまって。」

ふいに七之助に手ぬぐいでおでこをそっと拭かれて
おりょうはどぎまぎした。

「早く帰って乾かしな。風邪をひいてしまう。」
一瞬、傘を握らせようとする七之助の大きな手が
おりょうの細い手をすっぽりと包んだ。

「ありがとう。七之助さん。」

やっとのことで礼を言った。
声が震えているのではないかと思うほど
おりょうの心はどきどきと高鳴った。










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 ののみ

Author: ののみ

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ゆっくりと綴っていきます

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